misono building + steak misono interior
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みそのビル+ステーキみその内装
インテリア/エクステリア

神戸三宮の繁華街、生田神社入口の交差点に建つ8階建ての飲食店舗ビルである。7-8階は、建物のオーナーが経営するレストラン、 1-6階はテナント貸しとなっている。このような都心の小規模のテナントビルの場合、法的な制約や建物所有者の見込む事業採算性によって、 平面、断面形状、使用出来る材料のグレードなど、建物のアウトラインがほとんど決定されてしまうといっても過言ではない。 設計者に委ねられる選択肢は限られており、さらにテナントの内装に対しては、ほとんどコントロールを及ぼしようがない現実がある。

様々な色に輝く繁華街の照明やネオン、サインがつくる濃密な風景。 それは、各店舗が生き残りをかけて自己アピールを競い合う繁華街にとって必然的である。 一棟のテナントビルの設計者に委ねられた限られた力を、それらを抑制する方向に使うことに意味があるとは思えない。 私は、むしろ個人的にそのような風景を楽しく美しいと思い、そのような個々の自己アピールを利用することによって、 この小さな商業施設をデザインできるのではないかと考えた。

そこで、建物の道路に面するファサードを出来る限り広い範囲で透明なガラス張りとした。 店舗の内部を意識的に外部に開くことによって、店舗内部と繁華街の風景を、 よりダイナミックで直結した関係にできないかと意図したからである。 そして、各階の店舗がお互いの差異を外部に対して強調しあう姿が集積したものを、 交差点に建つランドマークのかたちとして表現できるのではないかと考えた。 各テナントの内装設計者に対しては、その主旨を理解してもらうための協議を重点的に行う一方、 内装にあたっての細かなデザインコントロールは要求せず、出来るだけ自由にデザインしてもらうことにした。

7-8階のレストラン部分については私が設計を行った。 ここは、客の前の鉄板上でコックがステーキを焼き、サーブする鉄板焼ステーキの専門レストランである。 現在広く普及しているこの形態は、戦後間もなくこのレストランの初代オーナーによって、 この場所ではじめて考案されたものである。鉄板は、調理台であると同時に保温された皿であり、 客やコックがその上でコミュニケーションを楽しむテーブルでもある。それは、この営業形態の合理性、 シンプルさ、このレストランの伝統を象徴し、店の中において圧倒的な存在感をもっている。 コックの手によって毎日丁寧に磨き込まれた銀色に美しく輝く鉄板が、インテリアの主役であることに疑いようはなかった。 また、鉄板の前にたち調理をするコックは、巧みなパフォーマンスで客を楽しませる役者のようであった。

まず座席の数、配置、客の視線、外部との関係、客や店員の動線、鉄板の熱の伝わり方、コックの作業性、 そして鉄板とコックの見え方などについて注意深くスタディを重ね、鉄板の形状、配置について決定した。 天井仕上げには、光を柔らかく反射する金箔、銀箔のクロスを貼り、肉を焼くときに発生する蒸気を排気する鉄板上部のフードについては、 光を鈍く反射するヘアライン処理のステンレスを使用した。ファサードのガラスを通して下部の街路から差し込んでくる繁華街の照明やネオンの光を、 一度上部の天井で反射させ、さらに下部の鉄板でもう一度反射させる。反対に鉄板上部のフードに取り付けた照明の光を鉄板で反射させ、 それを再び天井で反射させて街にかえす。このような内外の光のやりとりが、鉄板を介して生まれることを期待したのである。壁と床には、 艶消し黒色のテクスチュアをもつ材料を使用し、ガラスのインテリア側に、外部を眺望するときに妨げとなる映り込みを生じさせないと同時に、 壁や床自体が夜の闇の奥行きの中に消えていくような効果を狙った。インテリアとエクステリアが呼応しあう奥行きを感じさせる空間において、 客が、料理、鉄板、コックの姿が美しく浮かび上がる様子を楽しみながら、ゆったりと身を委ねて食事ができるような場をつくりたいと考えた。

小澤 丈夫
©2003 TEO architects